Levi's 507XX (2nd) デニムジャケット:その誕生背景、年代別ディテール、真贋の考察
はじめに:Levi's 507XX (2nd) デニムジャケットとは
ヴィンテージデニムジャケットの世界において、Levi's (リーバイス) の「セカンド」モデル、通称507XXは、その象徴的なデザインと歴史的価値から、世界中のコレクターを魅了し続ける存在です。1950年代初頭に登場し、初期の「ファースト」モデル506XXからの進化を遂げた507XXは、現代のデニムジャケットの原型を築いたとも言える重要なモデルです。本稿では、この507XXデニムジャケットに焦点を当て、その誕生背景から年代ごとの詳細なディテール、そして真贋を見極めるためのポイントまでを深く掘り下げて解説いたします。
507XXの歴史的背景と位置付け
Levi's 507XXは、Levi'sが展開したデニムジャケットの歴史において、506XX (1st)、557XX (3rd) の間に位置する第二世代のモデルとして知られています。1930年代に誕生した506XXがフロントにシンチバック(尾錠)を備え、ややタイトなワークウェアとしての側面が強かったのに対し、507XXはより現代的なボックスシルエットを採用し、シンチバックを廃止、サイドアジャスターを導入することで、ファッションアイテムとしての側面を強化しました。
製造期間は一般的に1950年代初頭から1962年頃までとされており、この間に幾度かのマイナーチェンジを経て様々なディテールが見られます。特に、パッチの種類やタブの仕様、ステッチの色など、細部の変化が年代判別や真贋の重要な手がかりとなります。
507XXの主要なディテールと年代別変遷
507XXの魅力はその堅牢な作りと経年変化もさることながら、微細なディテールに宿る歴史の証にあります。ここでは、コレクターが特に注目する主要なディテールについて解説します。
1. パッチ (革パッチ vs. 紙パッチ)
507XXの年代判別において、最も重要な要素の一つがバックヨークに縫い付けられたパッチです。
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革パッチ期 (通称「初期セカンド」):
- 製造初期、概ね1953年頃から1955年頃までに見られるのが、乾燥で縮みやすい革製のパッチです。このパッチには「EVERY GARMENT GUARANTEED」の文字が記されており、非常に希少価値が高いとされています。革パッチは着用や洗濯によって劣化しやすく、現存するものの多くは硬化や欠損が見られます。
- パッチの形状は506XXのそれと類似していますが、ロットナンバーのフォントや位置に若干の違いが見られます。
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紙パッチ期:
- 1950年代中期以降、革パッチから紙製のパッチへと移行します。この紙パッチはさらに「ギャラ入り」と「ギャラなし」に大別されます。
- ギャラ入り紙パッチ: 1950年代中期から後期にかけて製造されたモデルに見られ、「Every Garment Guaranteed」の文字がプリントされています。紙製であるため、革パッチと同様に経年劣化や洗濯によるダメージを受けやすいですが、革パッチよりも現存数は多いです。
- ギャラなし紙パッチ: 1950年代末期から507XXの生産終了期である1962年頃までに見られます。パッチから「Every Garment Guaranteed」の表記が省略され、「Levi's」のブランド名とロットナンバーのみが記載されています。
2. 赤タブ (Red Tab)
左胸ポケットのフラップに取り付けられた赤タブも年代判別の重要なポイントです。
- 両面刺繍の均等Vタブ: 507XXの多くは、Levi'sロゴの「V」の文字が左右均等な幅で刺繍された「均等V」タブが特徴です。これは、1970年代以降の「不均等V」タブとは明確に異なります。
- 素材と縫製: タブの生地はコットン製で、通常はポケットのフラップにオーバーロックでしっかりと縫い付けられています。
3. ボタン (Button)
フロントボタンと袖口のボタンは、その刻印と材質に注目します。
- フロントボタン: 鉄製の打ち抜きボタンが採用され、裏面には通常、特定の製造工場を示す数字(例: 「J」や「D」、「O」などのアルファベット、または数字「17」など)の刻印、あるいは無刻印のものが存在します。初期のモデルでは無刻印が多い傾向にあります。
- リベット:
- フロントリベット: 銅製の打ち抜きリベットが採用されています。表面は光沢のある平らなタイプから、若干ドーム型に膨らんだタイプまでバリエーションが見られます。
- 隠しリベット: バックポケットの内側には、補強のための隠しリベットが打ち込まれています。このリベットには「LEVI'S」の文字と「〇」で囲まれた「C」の刻印、または「L S & CO S.F.」などの刻印が見られます。この刻印の書体や位置も真贋判断の重要な手がかりです。
4. ステッチ (Stitch)
507XXのステッチは、その配色と縫製仕様に特徴があります。
- イエローステッチとオレンジステッチ: 全体的にイエローステッチが多用されていますが、カンヌキやボタンホール、袖口のチェーンステッチなど、負荷がかかる部分には強度を考慮してオレンジ色の綿糸が使用されることがあります。初期モデルほどイエローステッチの比率が高い傾向があります。
- 縫製ピッチ: 細かく均一な縫製ピッチが特徴で、特に襟、カフス、裾のチェーンステッチは非常に丁寧に仕上げられています。
- ボックスステッチ: 胸ポケットのフラップを固定するボックスステッチは、その形状や角の処理が年代によって微細な違いを見せます。
5. 生地 (Fabric)
507XXに用いられる生地は、Levi'sが誇る「XX (ダブルエックス)」デニムです。
- 耳付きデニム: 通常、緯糸に白い綿糸を用いたセルビッジデニム(赤耳)が使用されています。生地の端に見られるこの「赤耳」は、旧式織機で織られた証であり、ヴィンテージデニムの象徴です。
- ネップ感とムラ糸: 不均一なムラ糸が使用されており、未加工の粗野な風合い(ネップ感)が特徴です。これが穿き込むことで、独特の表情豊かな色落ち(通称「縦落ち」や「点落ち」)を生み出します。初期のXXデニムは特にインディゴ染料の濃度が高く、コントラストの強い色落ちが期待できます。
6. その他のディテール
- フロントプリーツ: フロントに二本のプリーツが入り、これらはボックスステッチで固定されています。これは506XXからのデザインを踏襲しつつ、フィット感を調整する役割も担っています。
- 胸ポケット: 左右対称のフラップ付きポケットが特徴です。ポケットの位置や形状、フラップのカーブの具合なども年代や個体差で見られます。
- サイドアジャスター: 507XXでは506XXのシンチバックに代わり、ウエスト部分の両サイドにアジャスターボタンが設けられています。このボタンも鉄製の打ち抜きボタンで、刻印はフロントボタンと同様の傾向が見られます。
- サイズタグ: 襟裏や内側のサイドシームに、ロットナンバーやサイズを記載した布製タグが縫い付けられていることがあります。特に初期のモデルでは、パッチだけでなく、このタグも年代判別の補助となります。
真贋判断のポイントと注意点
ヴィンテージ507XXの真贋判断は、単一のディテールだけで結論を出すことは困難であり、複数の要素を総合的に判断する必要があります。
- 全てのディテールの整合性: パッチの種類、タブの仕様、ボタン刻印、リベット、ステッチの色と縫製、そして生地の風合いが、その年代に合致しているかを注意深く確認します。例えば、革パッチのモデルに不均等Vのタブが付いている、といった明らかな矛盾があれば、偽物の可能性が高まります。
- 生地の質感と色落ち: 偽物はヴィンテージデニム特有の粗野な生地感や自然な色落ちを再現することが難しいため、不自然な色落ちや均一すぎる生地は注意が必要です。
- 縫製の丁寧さ: ヴィンテージLevi's製品は、当時の高い技術力で丁寧に縫製されています。縫い目の乱れや粗雑な仕上がりは、真贋を疑うサインとなり得ます。
- 全体の雰囲気とエイジング: 長年の着用によって生じる自然なダメージ、色褪せ、アタリなども重要な要素です。不自然な加工や過度なダメージは、レプリカやフェイクである可能性を示唆します。
- 専門知識を持つ信頼できるショップでの購入: 最も確実な方法は、ヴィンテージデニムに関する深い知識と実績を持つ専門店で購入することです。疑問点があれば、購入前に必ず専門家のアドバイスを求めるべきです。
まとめ:507XXが語りかける歴史
Levi's 507XX (2nd) デニムジャケットは、単なる衣料品ではなく、1950年代のアメリカの労働文化とファッションの変遷を物語る貴重なアーカイブです。その細部に宿るディテール一つ一つが、製造年代や背景、そして当時の技術を雄弁に語りかけます。コレクターにとっては、これらのディテールを読み解き、真贋を見極めるプロセス自体が、ヴィンテージアイテムへの深い理解と愛情を育む喜びとなるでしょう。
本稿が、ヴィンテージ507XXを愛する皆様の知識を深め、より充実したコレクター体験の一助となれば幸いです。