Wrangler 11MWZ 初期モデル:その誕生から象徴的ディテール、年代判別の鍵まで
「ヴィンテージアイテム図鑑」をご覧の皆様、今回はアメリカンワークウェアの雄、Wrangler(ラングラー)が誇る名作、11MWZの初期モデルに深く迫ります。Levi'sやLeeと並び、ジーンズの歴史に名を刻むWranglerのアイコニックなモデルである11MWZは、その革新性と独自のディテールで多くのコレクターを魅了してまいりました。特に、1940年代後半から1950年代にかけて製造された初期モデルは、その希少性と歴史的価値から、特別な存在として認識されています。
この度の記事では、Wrangler 11MWZ初期モデルの誕生背景から、特徴的なディテールの詳細、そしてコレクターが最も関心を寄せる年代判別と真贋を見極めるための鍵について、専門的かつ具体的な情報を提供してまいります。
Wrangler 11MWZの誕生と歴史的背景
Wranglerは、1904年にノースカロライナ州グリーンズボロでC.C.ハドソンが創業したハドソン・オーバーオール社を起源とします。1940年代に入り、本格的にジーンズ市場への参入を目指し、専門性の高いカウボーイ向けウェアの製造に注力し始めました。その結果、カウボーイの激しい動きにも耐えうる機能性とデザインを追求し、1947年に伝説的なデザイナーであるロデオ・ベン(本名:バーナード・リパート)を招聘。彼の手によって開発されたのが、Wranglerのアイコンとなる「11MWZ」です。
「11MWZ」の「11」は使用されているデニムのオンス(当時は11オンス程度の左綾デニムが主)、「MW」は「Men's Western」、「Z」は「Zipper(ジッパーフライ)」を意味します。当時、まだボタンフライが主流であった時代に、いち早くジッパーフライを採用したことは、着用者の利便性を追求したWranglerの革新性を象徴するものでした。カウボーイが馬に乗る際に邪魔にならないよう、リベットの配置やポケットの形状にも工夫が凝らされており、実用性と耐久性を兼ね備えた唯一無二のジーンズとして、瞬く間にカウボーイたちの間で絶大な支持を得ることとなります。
初期モデルにのみ見られる象徴的ディテール
Wrangler 11MWZの初期モデルは、その後のモデルチェンジを経て失われていった、貴重なディテールを数多く備えています。これらのディテールを知ることが、年代判別と真贋を見極める上で不可欠です。
1. 生地(デニム)
初期の11MWZは、Levi'sの右綾デニムとは異なる、独特の左綾デニムを採用していました。この左綾デニムは、右綾に比べて穿き込むほどに縦落ちが強く現れる傾向があり、非常に美しい色落ちを生み出すことで知られています。1960年代にWranglerが特許を取得する「ブロークンツイル」が導入される以前の左綾デニムは、その風合いと色落ちの特性において、コレクター垂涎の的です。生地のネップ感や毛羽立ちも、年代によって微妙に異なるため、ルーペを用いて詳細に観察することが重要です。
2. レザーパッチ
初期モデルの象徴的なディテールの一つに、バックヨークに取り付けられたレザーパッチがあります。
- 黒タグ(初期中の初期): 1947年頃の最初期には、「黒タグ」と呼ばれる、黒地に白抜きで"Wrangler"ロゴと"BLUE BELL"の表記が入った簡素なレザーパッチが確認されます。これは極めて希少なディテールです。
- 馬にロープの絵柄: その後、Wranglerのアイコンである「馬にロープを投げるカウボーイ」の絵柄が描かれたレザーパッチが登場します。このパッチは、初期においては比較的小さく、革質も厚く硬質なものが多い傾向にあります。文字の書体やパッチの縫い付け方(例えば、四隅のステッチが角ばっているか、丸みを帯びているか)も、年代によって細かな差異が見られます。
3. フロントジッパー
「Z」が意味する通り、ジッパーフライが11MWZの最大の特徴です。初期モデルでは、主にTALON社製のジッパーが採用されていました。
- TALON社製スクエア型ジッパー: 最初期には、ジッパープルが比較的直線的でスクエア状のデザインのTALONジッパーが見られます。
- ベル型TALON(タロン42): 1950年代に入ると、通称「ベルタロン」と呼ばれる、ジッパープルがベルの形をした「TALON 42」が採用されるようになります。このベルタロンは、ヴィンテージWranglerの年代判別において非常に重要な手がかりとなります。ジッパーのスライダーの形状、刻印の有無、そしてジッパーエンドの縫製(トップステッチが直線的か、あるいは少し湾曲しているかなど)も、年代を特定する上で考慮すべき点です。
4. リベット
Wranglerのリベットは、そのデザインと刻印が年代によって変化します。
- 無刻印・C刻印リベット: 初期のリベットには、表面に刻印のないプレーンなタイプや、「C.F.W.」の刻印が入ったものが確認されます。これはWranglerの前身であるCasey Jonesというブランドとの関連性を示唆するものです。
- W刻印リベット: その後、Wranglerのアイコンである「W」の刻印が入ったリベットが登場します。特にフロントポケットの縁や、バックポケットの内側に隠された隠しリベットの形状と刻印は、初期モデルの重要な特徴です。隠しリベットは、後年のバータック補強へと移行する前のディテールであり、その有無と形状は年代を特定する上で欠かせません。
5. バックポケットとサイレントWステッチ
Wranglerのバックポケットは、その独特な形状とステッチワークが特徴です。
- サイレントWステッチ: バックポケットに施された「W」のステッチは、Wranglerの象徴です。初期モデルのサイレントWステッチは、比較的直線的で、左右の間隔も広い傾向にあります。時代が下るにつれて、ステッチの曲線がなだらかになったり、間隔が狭まったりする変化が見られます。
- コインポケットの耳: フロントのコインポケットには、初期モデルの場合、セルビッジ(耳)が見られることがあります。これは、通常のジーンズと同様に生地を効率的に使用していた証拠であり、初期のデニムの仕様を示す重要なポイントです。
6. 縫製とステッチワーク
- メインステッチの色: 初期モデルでは、主にオレンジ色の綿糸を用いた縫製が確認されます。特に、巻き縫い(ロックステッチ)の部分や、バックヨーク、ベルトループのステッチの色と太さは、年代によって微妙な変化があります。
- ベルトループの形状: 初期モデルのベルトループは、やや幅が広く、V字状のステッチでウエストバンドに固定されていることが多いです。
- アウトシーム: Wrangler 11MWZは、その構造上、アウトシーム(外側の縫い目)が巻き縫い(ダブルステッチ)で仕上げられているため、Levi'sのような赤耳(セルビッジ)が表に出ることは稀です。しかし、初期の生地がセルビッジデニムであったことは事実であり、縫い代を解体するとセルビッジが確認できる場合があります。
年代判別と真贋の極意
Wrangler 11MWZ初期モデルの年代判別と真贋を見極めるには、上記で解説したディテールの「組み合わせ」が最も重要です。単一のディテールだけで判断するのではなく、複数のディテールが特定の年代の仕様と合致するかどうかを総合的に判断する必要があります。
例えば、
- 黒タグの有無
- パッチの絵柄と質感
- ジッパーの種類(スクエアTALONかベルTALONか)
- リベットの刻印(無刻印・C刻印かW刻印か)
- 隠しリベットの有無
- サイレントWステッチの形状と間隔
- 生地の織り方と色落ちの傾向
これらの要素が、矛盾なく初期モデルの年代と一致しているかを確認することが、真贋判断の鍵となります。特に、リプロ品(復刻品)では、特定のディテールは忠実に再現されていても、生地の質感や縫製糸の素材、経年変化の具合など、ヴィンテージ特有の「雰囲気」が異なる場合が多いです。また、過去の資料や信頼できるコレクターの情報と照らし合わせることも、確実な判別のためには不可欠でしょう。
結びに
Wrangler 11MWZ初期モデルは、単なる衣料品としての価値を超え、アメリカンワークウェアの歴史と文化を物語る貴重な遺産です。その独特なディテール一つ一つに、当時の技術と哲学、そしてカウボーイたちのライフスタイルが凝縮されています。本記事が、皆様のWrangler 11MWZに対する理解を深め、今後のコレクション活動や真贋判断の一助となることを心より願っております。この魅力的なヴィンテージアイテムの探求が、皆様にとって更なる喜びとなることを願ってやみません。